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パンジーもゆきやなぎもチューリップも桜の木も消えて、車いすも消えて、あたしはひとりぼっちで、へやのすみっこにしゃがんでいた。
顔や耳がはじけそうにあつくどくどくして、両方のうではがくがくふるえて固まっていた。
ふっと空気が動いた。かげがかぶさって、いきなりあたしをだきしめてキスした。あたしは頭がしびれて、なにも考えられなくなって、入ってきた舌に舌をからめた。たばこの味がぴりぴりした。
口をはなして、その人は、
「えりす」
ってささやいた。悲しそうな白っぽい目だ。
「走れ、ここから遠くへ走れ」
灰色の上着にしがみついて、あたしはくすくす笑いだした。
「あーよかった、丈一さんだあ、よかったあ」
あんまりうれしくて、口がかってにしゃべりだす。
「あのね、あのね、あたしおふろ場で、ひとりで、いやらしいことしちゃった。ことり荘でした、いろんなこと思い出して」
笑っちゃいけないと思えば思うほど、笑いがとまらない。くすくすくすくす、ふるえるあたしはもっと強くだきしめられた。
息が耳にかかる。
「俺なんて、毎晩やってる」
丈一さんも笑っていた。
やっとわかった。あたしこの人好きだ。こわいことはぜんぶなくなって、きっとしあわせになってほしい。そういうのをちゃんと伝えなきゃって思って、ぎゅっと力をこめた。
でも、つかんだ手の感じもやさしい笑い顔も、みるみる白いきりにかくれてしまう。あたしのそばにのこったのは声だけだ。
「走れ、えりす、走れ」
さく。
首をふって体を起こし、見まわした。あたしは泣きながら雪の中にいた。
立ち上がって、長ぐつを下ろした。
◆
小さい音がして、あたしは目をあける。
ねぶくろのままだから天井しか見えない。
まどからの光が、天井にしましまの絵をかいている。その長さでだいたい何時くらいかわかる。まだ、ま夜中の少し前くらいだ。
今度ははっきり、かぎのまわる音がする。
「待たせたね」
声で熊谷先生だって、すぐにわかる。
あたしは目をあけたままじっとしている。
ごそ、ごそ、いつもとおんなじに先生はベルトをはずし、あたしのねぶくろをすっかりひらく。
「ちゃんと全部飲んだね、いい子だ」
っていいながら、あたしのね巻をぬがせて、おむつもとる。
夜の空気が体のぜんぶにさわって、あたしは小さく息を吐く。
先生はいつもとおんなじに、
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