第1章

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 「これは秘密だよ、だれにもいってはだめだよ」  っていいながら、あたしの体にさわりだす。あちこちいじったり、写しんをとったりする。  「相変わらずいやらしい女だな、こいつが待ちきれないか」  体じゅうに汗をかいてはあはあいいながら、先生は一生けん命動く。やがてみじかくうめいてふるえる。あたしのおなかに、あたたかいものがかかる。  くたびれるのはわかるけど、おへそに入った分もちゃんとふいてほしいなあ、ってあたしは思う。でもティッシュでざつにふくだけで、いつものとおり先生はとなりでねてしまう。  先生のね息がすうすうつづくまで待って、あたしはゆっくり起き上がる。  そうっとわきのシーツをはがして、ベッドの中に手をつっこむ。おしこんであったクスリがゆかに落っこちて、ぱらん、ぱらんって音がするけど、先生はぐっすりねたままだ。  指が冷たくて重たいものをつきとめる。  両手に持ち直して、あたしはふうっと細く長く息をつく。  むねがわくわくして、笑っちゃいそう。    先生のせ中のあなを、あたしはわくわく見つめる。  変化はすぐにはじまる。  あなから、金色の光があふれだす。暗いへやの中だからよけいくっきり見える。  あなは細い金色の線になって、首すじからおしりまでのびて、熊谷先生のせ中はぱかっ、とまっぷたつにわれる。夏の明け方、茶色いセミの子どもから、まっ白なセミの大人が出てくるのとおんなじだ。  われた中から、まぶしい金色の光があふれる。光はなつかしいやさしいきれいな顔の形になった。  すぐにあたしを見つけて、  「えりす」  って口を動かす。いつだって笑っている。  あたしはむちゅうになってだきつく。だきついたところから金色のお湯みたいに、譲次さんはどんどんあたしにしみこんでくる。あったかくて気持ちがよくって、すぐにでも気ぜつしちゃいそうだ。  でも気ぜつしたらもったいないから、あたしはひっきりなしにしゃべる。  「今日ね、鴎さんが来たよ。あの子あいかわらず、おかしなことばっかしゃべって、とってもおもしろかった。あ、丈一さんのけががなおったって。よかった、丈一さん、もうこわいことないね……あたし、あの人好き。きっときっと、しあわせになってほしい」
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