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「すごい人なの?」
つい琉太は、父にそう聞いてしまった。
「すごい人だよ。この人に父さんは沢山笑かしてもらったよ」
「笑わせるのがすごいの?」
「ああ。笑わせることは、とても難しいんだ。この落語家さんは、一生をかけて沢山の人を笑わせたんだ」
父の目にはうっすらと涙が浮かんだ。
その日の夕飯は、ばあちゃんと父と母がその落語家さんの思い出話を語り、琉太は静かにそれを聞いていた。
父も母もばあちゃんと同じくらいに好きな人のようで、話が尽きることはなかった。
琉太もテレビで見ていたのだから、分かる話もあるが知らない話が遥かに多かった。
「ごちそうさま」
琉太は、そう言って部屋に戻る。
自分の知らない話を聞くのは好きだが、どうしても亡くなった人の話を聞くのは大ばあちゃんを思い出してしまう。
また、学習机にかじりつき、外を眺めていると目の前の網戸から強い風が吹いてきた。
その風と一緒に大地が網戸をすり抜けて飛んできた。
「やぁ。琉太」
大地がそう言葉を発したとき、琉太はしりもちをついていた。
「何がやぁだよ!びっくりしただろ!」
大地は、琉太の部屋の中央でふわふわと浮いている。
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