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また、口元へと箸を寄せるが、やはり苦い顔をする。
熱くて麺をすすれない猫舌を演じているのだと気付いた琉太の口からくすくすと笑い声が漏れる。
落語家は、器から持ち上げた麺を下げたり上げたり吹いたりするが、やはり熱くて食べられない。
箸を床に置いて、器を床に置いて、恨めしそうに眺めてから落語家は手を合わせる。
口が動き、琉太はその口の動きが「ごちそうさま」と言っているのだと気付き、「食べてないじゃん!」とつい叫ぶと落語家は頭ををかく仕草をした。
「面白かった!」
琉太がそう言うと落語家は満足そうな笑顔を見せて、ふわりと消えた。
「どうだった?」
大地がそう聞いてきたが「見れば分かるでしょう!面白かったよ!」と琉太は語気を強めた。
「一生を芸で生きてきた人だから、未練も芸を見せたいってすごいよな」
「うん。ばあちゃんや父さんや母さんが好きな理由が分かったよ!」
「うん。なら良かった。人が亡くなることは悲しいけど、その人が生き抜いてきたことも考えろよ。大ばあちゃんが亡くなってから落ち込んでいたみたいだから。おっと時間だ」
大地の姿が薄くなっていく。
「大地ありがとう!大ばあちゃんにも落語家の人にも僕は感謝する!」
琉太の言葉を聞いて大地は笑顔を見せて消えた。
亡くなった人がそれまで生き抜いてきたこと。
それが供養というものなのかなと琉太はそう思える夜だった。
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