胎児の煙

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一人っ子で両親が共働きをしているため、琉太はよその子より格段に大人ではあるのを家族は気にしているようだが、好きなことがあるということに安心もしている。 琉太の本棚に並ぶのは、やはり童話や児童文学であることで大人たちは安心するのだ。 大人たちの知らない場所で亡くなった人の未練に関わっている琉太は、周りを騙しているような感覚にもたまに陥るが、琉太に罪はない。 もちろん大地のことも周りに話せるものではないと琉太は理解している。 己の知らぬ場所で何かが起きたのかを分からぬように大人と子供の関係もそうなのだ。 言えない秘密はあるのだ。 といっても秘密は共有したくなるもの。 もし大地がよいと言うのならば、亮だけには教えたい。 琉太の胸にはそんな思いがある。 そうそううまい具合に大地が現れる訳ではないが、そう決めると待ち遠しくもなる。 だが、それは人の死を待つものであると考えると今度は胸が痛くなる。 その狭間に揺られて日々を過ごしていた朝、琉太が朝食のみそ汁を口にしていたときにその話は母の口から飛び出した。 「三丁目のあかりちゃん、やっぱりおろすって」 「そうか。まだ高校生だものな」 「相手をぶん殴ってやりたいね!」
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