大ばあちゃんの煙

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日は昇り日は沈む。 何百何千何万年。同じ朝は一つとしてなく、同じ夜は一つとしてない。 琉太は、今年の入学式の日、ランドセル姿を入院している大ばあちゃんの前で得意気に披露していた。 琉太の母の母は、ばあちゃん。 琉太の母の母の母は、大ばあちゃん。 大ばあちゃんは厳しくも優しく、琉太はその大ばあちゃんのシワだらけの手で頭をくしゃりと撫でられるのが大好きだった。 ゴールデンウィークに琉太が「いいもの見せるよ」と病室でシャボン玉を作ったときには嬉しそうに笑っていた。 はじめてのテストで満点をとって、大ばあちゃんに見せたときは起き上がれなくなっていたが、嬉しそうに笑っていた。 こうやって大ばあちゃんを励ましていれば、病気など吹き飛んで、また一緒に暮らせると琉太は信じていた。 一学期も終わりが近い初夏の日、琉太は二度と目を開けることのできない大ばあちゃんを病室で見つめていた。 青白い顔の大ばあちゃん。 その死に顔は笑っているように見えた。 琉太が生まれてはじめて経験した親しい者の死。 琉太の母が、「大ばあちゃん、頑張ったね」と大ばあちゃんの頬を撫でた。 琉太のばあちゃんが「苦しくなかったかい?」と大ばあちゃんの手を握る。 琉太は、大ばあちゃんの眠るベッドの横に突っ立っていた。 大ばあちゃんは、すぐにも目を開けて琉太に笑顔を向けてくれるような、そんな気になるのだけど、旅立った命は二度と戻らない。 琉太の心には悲しみより怖さが先立っていた。
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