胎児の煙

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父やばあちゃんの言葉を聞いても琉太には、なんの話なのか見当がつかない。 「なんの話なの?」 つい聞いてみる。 「ああ。あかりちゃんね、お腹に赤ちゃんがいるんだけど、産めないからその処置をするのよ」 「処置?」 「天国に行ってもらうということだよ」 父の一言に琉太の背がスッと寒くなる。 「殺すの?」 「そういうことだ」 琉太は黙りこむ。 琉太の家族は、琉太の疑問をにごすことはしない。 琉太にとってありがたくもあるが辛くもある。 そういう家庭であるからこそ、琉太は大人びていくのだろう。 「琉太、赤ちゃんを産みたくても産めない人もいるし、育てたくても育てられない人もいるんだよ。今分かれとは言わないが覚えておくんだよ」 「……うん」 世の中は、白と黒には分けられない。納得できないことがあるのも分かる。 それでも、どうしようもない話を聞くとつい悔しくなる。 話を聞くばかりで何もできないのが辛くなる。 「ごちそうさま。学校行くね」 箸を置いて、そう言って琉太はランドセルをとりに部屋に向かう。 少しだけ涙が出ていた。
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