料理人の煙

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その夜、大ばあちゃんの夢を見た。親子丼を作る大ばあちゃん。その横にはばあちゃんと母。 三人で作ってくれた親子丼は夢の中でさえも美味しかった。 朝が来て、学校に行き、授業を受け、給食を食べ、また授業を受けて、放課後になり、いつもの公園で亮の練習が始まる。 亮の練習の当初に大地は現れたが、それから現れてはいない。 亮もそのことには触れてこない。 琉太もそれより練習が先だと思っているので口にはしない。 だが、練習の合間にベンチに二人並んで休憩をしているときに、大地が公園の入り口から普通に歩いて二人の前に向かってきた。 大地は笑顔を見せているが少しばかり目が赤かった。 「久しぶり。今日は二人に頼みがあるんだ」 「頼み?煙の未練晴らすこと?」 「うん。頼むよ」 琉太の疑問に大地は頭を下げた。 「……いいよ。いいから頭あげて。亮、いいよね?」 「うん……。断る理由なんてないもの」 「ありがとう。ついてきて」 振り返り歩きだす大地の背中は寂しげに見える。 琉太と亮は視線を交わすが何も言わずについていく。 「難しい未練なの?」 大地の背に向けて亮が問う。 「僕じゃ未練を晴らせないこともあるんだよ」
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