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紺屋の見た空
店を出ると、頭上には澄み切った青い空が広がっている。
西の空を見やると、遠くに灰色の雲が垂れこめている。
こりゃひと雨くるわな、と思った龍五郎は、父・太兵衛が染めてくれた藍色の着物に身を包み、足早に目的地に向かって歩き出した。
藍染めを生業とする丸高屋にとって、梅雨時の今は日々の商売に慎重にならざるを得ない。藍染めの作業は屋外でやらなければいけないことも多く、特に実際布に色を付ける作業においては、明るい日の光のもとで染まり具合を見ることが不可欠であったから、梅雨の晴れ間は貴重であった。ゆえに、太兵衛と、長兄の紺太郎はこのところ滞ってしまった色付け作業に専念せねばならない。
本当は龍五郎も色付けを一緒にやりたかった。白や生成の布が、深い藍色や、今時分まさに咲き誇る紫陽花のような紫に、染まっていく様を見るのが好きだった。
ともあれ、今は言われた通りお使いに行くのが先決である。龍五郎が向かっている大松屋というのは京の中心地に店を構える由緒正しい呉服屋だった。伏見の外れにある丸高屋から歩いていくのは少し遠いが、お得意様の店の立地に文句はつけられない。
龍五郎が大松屋に到着するまで、灰色の雲はまだ西の空で待ってくれていた。
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