気にしないなんてまだできない

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 通学路の途中である、住宅地。 アスファルトに履いているローファーが小さく音を立てる。私の他にも何人か、学生や会社員の人がいた。  音楽を聞いていたり、電話をしていたり、友達と話している人達が、それぞれの目的地に向かって歩く。  住宅地を抜けると、長い土手に出る。 流れる川は、あまり綺麗ではない。端の方にはゴミがちらほら見えた。  歩いていると、木々が並んでおり、お母さん曰く、桜の木だそうだ。春にはちょっとした名所だという。  家族とお花見でも出来たら楽しいだろうな。朗らかな気持ちで私は歩いていた。  ここまでは普通の登校であった。 目の前の桜の木によじ登り、太い木の枝に座っている伊丹 慶二を見るまではそれはもう穏やかな心情であった。  伊丹は顔を少し上げ、空を見ているようだった。  落ちたりしないだろうか、机の上でもアレだったのに、今回は木の枝である。 「…なに、してるの?」  またもや声をかけてしまった。別に無視してもよかったのだが、昨日の今日でそれをするのも悪い気がした。 「む?これは、陸奥さんではないか。おはよう」  伊丹は普通に挨拶してきた。まるで、街中を歩いていたら偶然出会った時のようにごく自然に。 「…おはよう」 周りを歩く人は変な目で見る。当然私のことも。 「早く下りて学校行きなよ。目立ってるよ」 「人の目を気にしていたら人生は謳歌できないさ」  言ってることは正しい。でも、それは私にはまだ、できていないことだ。 「先、行ってるから」 足早にその場を立ち去った。 感じが悪かっただろうか。  関係のない人達は何を考えているかわかったもんじゃない。気味悪がったり、嘲け笑ったり。しかし、それを表に出さない。心の中で、あるいは絶対安全地帯からそれをするのだ。  周りを気にしないなんて、私にはできるわけがなかった。
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