気にしないなんてまだできない

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「むっちゃん!」 女の子は私の前へと回りこみ満面の笑みを浮かべていた。 むっちゃんは私のことだったようだ。 「……え…と」 言葉が出て来なかった。目の前にいるのは全く知らない子だった。 「ひ、人違いじゃない?」 「間違えてなんかないよー。陸奥 由香里ちゃん。むっちゃんでしょー?」  そう笑顔で答えられても、全然分からなかった。昨日こんな子と話した覚えがない。   しかも…むっちゃんだなんて今まで呼ばれたこともない。  その子は少し着崩した制服に、赤みがかった髪を上の方で両方を小さく結んで、あとは流していた。 「ご、ごめん誰だっけ?」 「えーひどいなー。おんなじクラスじゃーん」  そ、そうだったんだ…結構インパクトがあるから見たら覚えているかと思っていた。 「まぁ~むっちゃんの席から見えづらいとこにいるからかな?」 「そうなんだ…でも、なんかごめんね」 「いいよ別に、転校二日目だしね。あぁ、アタシ、野引(のびき) 沙織(さおり)、よろしくね!」  野引と名乗った少女は全く気にしない様子で笑顔だった。 「じゃあ、教室行こっ。むっちゃん!」 「う、うん。てかなんでむっちゃん?」 「ん~?陸奥だから」 「そ、そう…」  初対面でここまで踏み込んでくるのもなかなかのものだ。  野引さんに軽く手を引かれ教室へ。 「おっはよーー!」  彼女は大きな声で挨拶をする クラスの人達は男女問わず挨拶を返していた。結構人気者なんだろう。  私も自分の席へ着く。伊丹はまだ来てなかった。  伊丹が学校へ来たのはチャイムの鳴る五分ほど前だった。  授業が始まるまで、私達に会話はなかった。
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