プロローグ 発症

3/3
前へ
/52ページ
次へ
「それは一体どのような病気なのですか?」 夫である男性が訊ねた。 夫婦に説明しているのは神経外科の医者である。 「簡単に言えば痛みを感じなくなります」 「痛みを…?」 「はい」 「その…命には…?」 夫は恐る恐る聞いた。 「直接的には危険性はありません」 「そ、そうですか」 夫婦はほっと胸を撫で下ろした。 「ですが、痛みを感じないということは、骨折や、病気の発見が遅れるということです。もしこれが先天性であった場合、赤ん坊のうちに、自分を傷つけることに歯止めが効かなかったところです」 「………」 二人は絶句した。 「娘さんは14歳、分別ある年頃だとは思いますが、ご家族にも十分注意が必要です」 「ち、治療法などは…?」 「無痛症は非常に珍しい病気です。私共の病院では前列がない上、明確な治療法もないのです…」 「そう…ですか…」  部屋には重苦しい雰囲気が流れた。  その後も少女の無痛症が治ることはなかった。 怪我をしても平気な顔をしている少女を見て、周りは気味悪がり、いつしか家族以外、少女の周りから人は離れていった。  そして、治療法も分からぬまま、二年が過ぎた。
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加