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【夕 下校】
文化祭へ向けての追い込み練習もあって、今日の部活は長引いてしまった。疲れた体を引きずるようにして生徒玄関から外へ出る。
完全下校の時間が近づいているからか、外には運動部の姿もない。きっと空野くんも帰ってしまったのだろうと思った時だった。
「――古海さん!」
何度も聞いてきた声だ。毎日毎日叩き込まれたものだけに、頭は瞬時に判断してその声に名前をつける。
空野くんだ。だから振り返っていいのか、悩んでしまった。私と目を合わせたら、また顔を背けてしまうのかもと怖くなって。
振り返らず足を止めた私に空野くんが続ける。
「お守りの中身、見たんだ」
「お守りなのに開けちゃったんだ?」
「コピー取ろうとして開けた。あの中に書いてあったことって……本当、だよな?」
嬉しくて口元が緩んでしまう。こんな顔、空野くんに見せられない。机があったら顔を突っ伏しているかも。
あのお守りを作った時、『空野くんが好き』と書きこんだのだ。
空野くんのことだからお守りを大切に保管してしまうと思ったけれど、私から話しかけてもまともに聞いてもらえないのだから、こうして書くしかなかった。
「俺のことが好きって、本気にしていいの? それとも、クラスのやつらに言われて俺をからかってるだけ?」
私は振り返って、告げる。
「本気で、空野くんが好きだよ」
空野くんと向き合って、目と目を合わせて。
私たち、はじめて、まともな会話をしている。
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