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「古海さんの手に触れてしまったなんて……なんてことをしたんだ……今日は手を洗えない。尊さの塊だった。最高。古海さんの手めっちゃ柔らかかった……もしかしてこれは俺の夢なのか……」
ここにきてはじまってしまったのだ。いつもの発作が。
嬉しいけれど、目の前にいる私を放置して、自分の世界に入ってしまうのはちょっと寂しい。
恰好いいのに『古海怜奈大好き病』がはじまれば残念になってしまう、そんな空野くんに苦笑しつつ歩み寄る。
そして精一杯体を伸ばして、つま先で立って――私より背の高い空野くんの頬にくちづけをした。
頬にキスといえ、自分からするのは勇気がいる。その恥ずかしさよりも、空野くんがどんな反応をするか見てみたい悪戯心が勝った。
ぶつぶつと不思議な言葉を呟いていた空野くんの動きが、ぴたりと止まる。
「いまのって……え、っと、」
「夢じゃないよって伝えたくて……だめだった?」
すると、空野くんがその場にうずくまる。ぷるぷると肩を震わせて悶絶していた。
どうやら頬にキスをするのは発作を悪化させてしまうらしい。その様子が可愛くて、私はくすくすと笑ってしまう。
「か、可愛すぎて限界突破……尊すぎて色々とヤバい……今日は俺の命日だな。墓を買おう」
「いやいや、命日じゃなくて、付き合った記念日だからね!?」
これは、はじめてまともなお話をした、私と空野くんが付き合った日の話。
ここからはじまる、私たちの0日目。
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