13人が本棚に入れています
本棚に追加
「ねえ、空野くん」
近づいて声をかけてみる。
すると。肩をびくりと震わせた後、再び顔を突っ伏してしまった。
「天使! 古海さん、可愛すぎる」
「き、聞こえてるよ……」
「声まで可愛い……萌える……」
悶絶するのは構わないけれど、私に聞こえてしまっていいんだろうか。
会話を諦めて自席へ戻るとすぐに友人が寄ってきた。私が声をかけていたところを見ていたらしく、にたにたとからかうように笑っていた。
「怜奈も大変だねえ。空野があんな調子じゃ、仲良くなれないもんね」
「私は、空野くんとちゃんとお話したいんだけどな」
「無理でしょ。あの変な病がなかったら、いいヤツなのに」
黙っていれば、空野くんは恰好いい。テニス部所属な今時の運動部男子。入学した頃は性格も普通だったから爽やかイケメンとして女子たちにも人気があったけれど、いまでは『古海怜奈大好き病』のおかげで、残念な男子と扱われるようになってしまった。
恰好いい空野くんに比べて、私は普通の女の子だ。特別かわいくもないし、運動や勉強ができるわけでもない。クラスで目立つ存在でもなかった私なのに、どういうわけか空野くんに好かれてしまった。
「傘、貸してあげたんだっけ」
「うん。それがきっかけみたい……その時も喋ってくれなかったけど」
いつだったか、天気予報が外れて雨が降ってしまい、困っていた空野くんに傘を貸したのだ。「傘を使って」と声をかけると、空野くんは何も言わず頷いて、傘を持っていった。
どうやらそこで空野くんは一目惚れしたらしい。なぜそれを知っているのかというと、悶絶するたびに叫んでいるので、情報がだだ漏れなのだ。
いまだって、机に伏せた空野くんから聞こえてくる。
「……古海さん尊い。付き合いたい」
こうして空野くんの気持ちは、ばっちり伝わっている。
本当は、私も空野くんが好き。好きだから困っていることに気づいて、傘を貸したのに。
付き合おうよ、って言いたい。
でも言わせてくれない。空野くんが、ちゃんとお話をさせてくれないから。
最初のコメントを投稿しよう!