ぜろ記念日ラブオール

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 生徒たちの試合がはじまる頃には、空野くんも落ち着いていた。  私がいなければ、空野くんは普通の男子に戻る。仲のいい男子と笑いあったり、冗談を言いながら、楽しそうにテニスをしていた。  やっぱり、空野くんは格好いい。  学校指定のジャージも浮かずに着こなす長い手足やスポーツをしているのだと伝わってくる引き締まった体。そして、ボールを追いかける真剣な表情。眺めているだけで胸の奥が締め付けられるように苦しくなる。 「……私も、好きなんだけどなぁ」  性格だって、ぜんぶ好き。たまに呆れちゃう時もあるけど、そこまで好いてもらえるなんて嬉しくて、早く空野くんに気持ちを伝えたいのに。 「私も空野くんと付き合いたいな」  このひとりごとが届いてくれたらいい。けれど、私と空野くんの間には距離があるからさすがに難しい。そもそも近くにいたら空野くんがテニスどころじゃなくなっちゃう。  呆けながら空野くんの姿を目で追っていた時、ぴたりとその動きが止まった。 「……いま! 古海さんが俺を見ている気がした!」  ラリーをしていたはずなのに、コートのど真ん中で立ち止まって叫ぶ。  確かに見ていたけれど、そんなに大声で叫ばれると恥ずかしい。というか、どうして見ていたことに気づいたんだろう。察知能力おそろしや。  その間にもゲームは続いていて、動きを止めた空野くんの横をボールが跳ねていく。やすやすと、相手に一点を渡してしまった。  この試合放棄っぷりに、さすがのクラスメイトたちも黙ってはいない。 「余所見すんな空野! 俺たちのチームが負けるだろ!」 「いいぞいいぞ、空野を封じろ! テニス部エースをなんとかすりゃ勝てる!」 「古海を隠せ! 試合にならねえ!」  空野くんの発作により、男子コートが騒がしくなる。  本当は、近くで活躍を見ていたかったし、応援だってしたい。でも私が姿を見せるどころか声をかけてしまえば、試合どころか保健室送りになってしまいそう。  好きなのに、もどかしい。  両想いなのに、近づかせてくれない。
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