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今日もついてなかった。
パソコンと睨み合いながら、いくらデザインを考えても上司からは罵倒に似たダメ出し。
目指していた夢も、この会社では近づく事すら出来ない。
ランチのハンバーグは生焼けだし、また珈琲は零すし、携帯の充電器は壊れるし、新しい靴は痛いし。
あの馬鹿男からは、なんの連絡もないし。
もう散々だ。
危ないですよって言われた道を、今夜も歩く。
もう何ヶ月も、一人で歩いてきた。
星の見えない夜に。
いつものコンビニのその向こうにある、スペインバルに向かう。テイクアウトが出来るので、今夜は少しだけ豪華な酒のつまみだ。
木製の扉を開けると、スパイシーな香りが鼻をくすぐる。テイクアウト用のメニューに視線を走らせていると、耳に響く声。
「こんばんは」
「あれ、ここの店員さんだったの?」
昨夜の、優しい声の彼が、爽やかな営業スマイルで出迎える。
「またこんな夜に一人で来たんですか?」
笑顔は崩さず、他の客のレジ打ちを器用にそつなくこなしている。
私とは、要領も懐の深さも多分全然違うんだろうな、とか。僻みっぽい考えがよぎる。
「どうにもならない事もあるんです」
彼に言うでもなく、独り言のように呟くと、パエリアと豚肉のオレンジ煮をテイクアウトする。
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