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「危ないですよ」
頭上から、優しい声が聞こえる。
何でここにいるんだと、体が固まる。
零れ続ける情けない泣き顔は晒せないと、俯いたまま「大丈夫」と手をあげる。
その私の頭を真っ暗な闇が包む────
「辛かったね」
何も知らない彼は、私を隠すように被せた上着の上から、子どもを宥めるように頭を撫でた。
「頑張ったね」
何度も何度も、何も知らないくせに、年下のくせに、優しい声で、ずっと言われたかった言葉を浴びせてくる。
おかげで、涙はどんどん溢れるし、嗚咽する声が漏れるし、瞼は腫れてくるし。
ほんと、ついてない。
でも、真っ暗な上着の中から見上げた彼は。
星のない空の中でただ一つ輝く、ポラリスみたいだった────
「あ、鼻水出てる」
「見るな!」
なんて、絶対言うもんか。
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