青羽

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青羽

 残青の女戦鬼こと、元傭兵の女戦士ゾマニィ。彼女は、共に行動しているドワーフのゴインと昼間から酒場で地酒を呑んでいた。八瓶空けたところで、まだ呑み足りないというゴインを残して酒場を出る。愛用している鉄籠手の修繕を、防具屋に依頼するつもりでいたのを思い出したのだ。 (姐さん)  酒場を出て直ぐ、オズティンが声を掛けてきた。彼は、ゾマニィが腰帯に挟んだ銀の短刀に宿る複製人格である。 「しっ。解ってる。私が酒場を出るのに合わせて動いたやつがいるな。十人ぐらいか……」  ゾマニィは考え、酒場から離れすぎないところで立ち止まった。腰を落とし、革長靴の紐を結び直しながら窺う。  男達がゾマニィを半包囲して足を止めた。何人かは、視認出来る。堂々と視界に入っていた。 「酔っていると思って、油断しすぎだろう。ナメているのか、素人か」  確かにゾマニィは酔っていたが、町のごろつき程度が相手ならなんの問題もない具合だった。板金が外れた右の鉄籠手は、修繕する必要があるので装備は万全ではない。が、日頃から、町なかでは籠手を外して背負い袋に入れるようにしているのだ。だから、今回に限って不利ということはない。 「ゴインならば、問題なかろうが。さて」  自分を包囲する連中の仲間が、ゴインをも狙っていた場合を考えたゾマニィである。 (路地にでも入って迎え撃ちますか?) 「どうかな――」  そう口にした時、ゾマニィの背後で大きな音がした。立ち上がって振り向く。  酒場の両開き扉が揺れている。その手前の石畳には、のびた男。自分の意思でなく、放り出されたと知れる。 「全く。なんなんじゃ」  銀髪を掻きむしりながら、ゴインが別な男を引きずって出てきた。 (あぁ……)  オズティンの溜息。この複製人格は、なかなかに人間らしい反応を示す。 「おう、ゾマニィ。まだおったのか」  銀髪銀鬚のドワーフが、陽気に声を掛けてきた。  ゾマニィは大いに笑った。 「早く戦斧を取ってこい。酒瓶と間違えるなよ?」  言い終えたゾマニィに、包囲していた男達が得物を手に襲い掛かった。  長剣を振るってきた男を、肩から下ろしざまの背負い袋で叩いた。 「人違い……ではないのか? 一応、訊いておくぞ」 「あんたゾマニィだろう? 不相応な通り名を持ってよう」
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