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言って、長剣の男が距離を取った。
ゾマニィの通り名――残青の女戦鬼――は、所属する傭兵団『青羽と直刀』は壊滅したものの、魔神を見事に討ち取り、魔神が率いていた魔物の群れを潰走させ村を守ったことに由来している。
「成る程。確かに、一部の称賛は痒くてたまらないが」
……村を守った、ということに関しては結果的に、であったから。ゾマニィとしては、魔神を狩れれば、後はどうでもよかったのだ。傭兵だった当時は、そんなものだった。
ゾマニィは、背負い袋を足下に落とした。
長剣を持つ者は、今斬り掛かった一人だけ。後は、短剣や短刀を握っている。鎧は、長剣の男が革鎧を着けているのみ。残りの者はせいぜい厚手の胴衣を着ているぐらいだった。
斬らずにあしらうか、斬ってしまうか。
「どちらも面倒だな」
斬らなければ、しつこく付きまとうかもしれない。ただ、斬れば、この地を治める領主に睨まれる。
――ゾマニィは、直刀を抜き放った。そのままの流れで、踏み込んできた男二人を斬り捨てる。続こうとしていた連中が、慌てて間合いを大きく取った。
「殺しだぁ」
「喧嘩よぉっ」
「衛士はどこだぁ」
悲鳴を上げ、周囲の通行人らが急ぎ離れていく。同時、一定の距離を置いて、人垣が出来る。通りの石畳は、見世物の舞台になった。演じる必要のない、殺し合いの舞台に――。
「やってしまった」
(いやいや。殺るつもりだったでしょ?)
「ま、気を遣ってやる義理もないからな」
技量差はあったとしても、斬らずに無力化するのは骨が折れる。それに、斬らぬ姿勢というものは、しばしば足下を見られるのだ。
「ちぇっ。バッサリかよ。なぁ、あんた。もう、取り返しがつかねぇよ」
長剣の男がわざとらしく渋い顔をした。
他の男達が、伺うように長剣の男を見る。
「抜いたのも、斬り掛かったのもお前らが先だ」
「ほんの挨拶のつもりだったんだがな。こちらとしては、頂くもんを頂けりゃ、それでよかったんだぜ?」
「町なかでの強盗か。分別を失う程、私が裕福に見えたのか?」
「俺が欲しいのは、その羽根だよ。青羽、つ~の?」
長剣の男が、ゾマニィの顔付近を指差した。
ゾマニィは、髪の一房を編んで、そこに青色の羽根――青羽を挿している。長剣の男は、それを指差したのだ。
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