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 頭に思い浮かんだのは、誰の顔でもありませんでした。あれほど見通せていた森の景色も、太陽がいないというだけで牢獄のようでした。  かろうじての月明かり。私が人でなければ、にぎやかに鳴く秋の虫たちに、進む道を尋ねられたのでしょう。当時は携帯電話なんて持っていませんでした。感覚を頼って出口らしき方向に進んだものの、枝に足を取られて転んだ結果、捻挫をして動けなくなるという情けなさでした。 (どうしよう……)  ずきずきとした痛みと焦りの中、時間だけが過ぎていきました。死にたい気持ちもあったはずなのに、心はお母さんに助けを求めていました。泣いたところで誰も助けてくれないのは分かっていました。だから朝を待つつもりでいたのに、ふいに現れた土砂降りは容赦なく体温を奪っていって。木の葉は雨宿りの傘になんてならなくて。  うずくまるだけの私は、きっと涙を流していました。いよいよ身体を震えさせるのが辛くなってきて、そろそろ死ぬのかな、それならそれでいいかなと、なにもかもをあきめようとしていた頃。 「夜ふかしはひかえめがいいですよ」
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