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優しい言葉と同時、頭上を闇が覆いました。雨が途切れます。黒色の傘。年上のお姉さんのような声の主は、私のすぐ後ろに立っていました。顔は見えなくても、恐怖とか警戒心とか、そういう余計なものは一切なかったのを覚えています。
「夜ふかしじゃ……ないです」
「みたいですね。ふふ、居場所がないとはいえ、こんな殺風景なところに来なくても」
それは声の主が、私を受け入れてくれると本能的に感じられたから。どうしてこういうことするの。一人前なんだからしっかりしなさい。家族も、学校の先生だって、そんなふうに都合よく私を心配して責めます。
「死のうと……してた」
それなのに、このひとが最初に口にしたのは、冗談なのか迷う言葉。ひょっとすると人間ではないのかもしれませんが、そんなことは気になりませんでした。私だってお世辞にも、上手に人間をやれているとは言えなかったからです。
「いいですねえ、自殺。普通ですよ、今の時代なら」
「そうなのかな」
「はい。優しい人なんて、あんまりいないなって感じませんか? 答えはひとつ。優しい人は、若いうちに自殺しているからなんです」
「そう、だったんだ」
「変わってしまうんです。ぜんぶ。人だけでなく、真夜中森も」
「真夜中森?」
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