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けたたましかった雨の音は、なくなっていました。震えていた体は、動かせるようになっていました。足の痛みも消えていました。私だけに寄りそって、あたたかくしてくれる人がいるから。
「そーです。死にたがりやさんを、殺してくれるところ。あなたは――千里ちゃんは、ふうむ、どうやら、そろそろなのかもしれませんね」
これまでずっと、私の後ろにいたお姉さんは、前に立って姿を見せてくれました。月との逆光で顔は見えませんでしたが、長い黒髪と、黒いワンピースのようなものを着ているようでした。つ。つ。私の下まぶたに、なにかがふれます。
「泣いてしまうのは、つらいのは、きっと、生きられるからです。死にたくなったら、また来てください。その時は今度こそ、わたしがあなたを殺しますから」
お姉さんの指が、涙をぬぐってくれていました。なんて、おおらかな人なんだろう。つらかったら死んでもいいよ。その場しのぎとは違う肯定は、これまでのどんな音色よりもいさぎよく、私を救ってくれました。
「……うん。分かった」
「よしよし、です。じゃあ、帰りましょうか」
「うん」
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