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全ての励ましは、うっとうしいお説教。苦しむのは、もうごめんでした。私が私でいられるうちに死んでしまいたい。あの時よりもしたたかな気持ちで私は森を、お姉さんが『真夜中森』と表現していた場所に向かって進んでいけました。がさがさ。分けてしまう木の枝にはご迷惑をかけて。
(見えにくい)
鳥の声。冷えていく空気。ずっとそこにいてくれるはずだった満月は、雲の裏に姿をひそませていきました。星のまたたきには頼れるはずもなく、あの夜を繰り返すように、私は森の中で立ち往生する結果となりました。
待っていれば会えたかもしれないのに、どうしても、探さずにはいられませんでした。ただ殺してもらうのもなんだか申し訳なく、それ以上に、お姉さんと個人的に再会したくて。どうしてあんなに誰かを許せるんだろう。弱い人におだやかになれるんだろう。素敵な人柄の秘密を最後に知りたかったのです。
「っ、わ!」
うかつでした。空想に入り込みかけていたせいか足元がおろそかになり転倒。私の身体は、崖になっているような空中に投げ出されました。痛みが来る。いやだ。ぐっと目を閉じました。せめて死ねるほどならいいなと願いながら。ぼふん。落下に音をつけるとするなら、そんなところでした。
「……え?」
痛くない。それどころか、柔らかい。砂利に叩きつけられたはずなのに。まぶたを開けます。結果から言うなら、私は無傷でした。普段は水が流れている小さな川。横幅いっぱいを満たすように、なにか途方もなく大きく長い生物のようなものが、上流から下流に向けて、もそりもそりと移動していました。
『だいじょーぶでしたかぁ?』
「ひいぃ」
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