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失恋~利用されていました、が~
「リリ、お前は毎夜外出して何をしているんだ?」
「秘密」
朝から父上のお小言。うんざりする。
「最近はまた東京も物騒だぞ。女テロリストとか東京に入ってきているそうだ」
「テロリストが女であるメリットってなんなの?」
「入国審査が緩いんじゃないか? 知らないけど」
ナノテク以外のこととなると、てんで馬鹿だ、この父は。だから嫁の貰い手も来ないんだ。そんなの大半の要素において女のほうが男より優れているからに決まっている。
「ねぇ、これから久しぶりに研究室に行っていい?」
ふと思い出した。ラーム生まれ故郷にいけばある胸の突っかかりを取れるかも知れないのだ。
その日の夜。イェンの手伝いを始めてから10日目。
トレーラーハウスはもぬけの殻で、頂上に行ってみるとそこにはイェンが一人いた。手には筒上の散布装置を持っている。
「ついに完成したんだね!」
「うん。おかげさまで」
「じゃあ、暑い夏――行ってみようか!」
イェンはナノボットの散布装置を起動するも、私と視線を合わせない。宙を見つめ、浮かない顔だ。散布装置は静かに稼働を続ける。
「ねぇ。イェンって名前は偽名ね」
「うん。だまして済まない」
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