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「じゃあ、行くよ。さようならリリ。ミッションを成功に導いてくれてありがとう。もっとも君の実力ではなくて、お父さんの恩恵なのかもしれないが」
「全部知ってたんだ」
「勿論。だから君に近づいた」
それと――わたしは女同士の恋愛に興味はない。あの小説も少し読んだけどあまり好きじゃないみたい。マイノリティな思考だね。ごめんね。リリちゃん。
イェン――彼女は小さく手を振り山頂を足早に去った。
あーあ、騙されちゃった。私は小さく呟いた。彼女に騙されていた――ことは途中から気が付いていたけどね。
出会ったあの日。イェンが持っていた『筒状のモノ』。あれはラームの散布装置そのものだった。それは日本が秘密裏に管理しており、散布装置の設置場所は情報公開していないはずだった。予備研究員である私だから知りえた事実だ。どこかで見たことがあった気がしたので、わざわざ研究所で確認してきた。彼女を派遣した国は非合法でそれを手に入れて研究していたのだろう。
また、ナノボットを開発するときはグレイ・グーへのセーフティーを考慮するのが当然のはずだ。イェンが一切のフェールセーフを考慮していないことにもずっと違和感があった。ナノテク技術者にとっては基本中の基本だ。
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