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もう一つ。彼女が苦戦しているソースを覗いたとき目を疑ったこと。ナノテクノロジーを研究する人間のレベルとしては技術力が非常に低いのだ。ただの学生プログラマーならいざ知らず、私の父が弁を取り、私が目指す某大学の院生であの程度のプログラムを書けないのは不自然すぎた。大方、彼女を派遣した国ではあれ以上の人材を用意できなかったのだろう。
私は彼女の片棒を担ぎながら、最悪の事態――グレイ・グーが起きた場合の対応も同時に考えていた。
騙されているのが分かっているなら最初から止めろよ、と父に限らず多くの人に言われそうだが、それが恋した者の心境なんだよ! 一縷の望みにかけたかったってやつ。別にいいじゃないか。イェンのグレイ・グーはなかったことにできるんだし。
だって、あんなスレンダーでボーイッシュな女の人はそうはいない。口調もルックスどおりだった。能力は置いておくとして、私と趣味も合うわけだし。
私は男に告白されたことは何度かあるのだが、女に告白して思いが叶ったことがない。恋愛未経験者なのだ。
「切ないなぁ」
私はぶつぶつ呟きながら、X-2とラベルが表示されている筒を取り出し、セーフティコードを入力する。すると上部の蓋が静かに開き空気が流れ出す。こんなものをばら撒いて私こそ環境テロリストとして指名手配されることになるかもしれないが、やむを得ない。そのときは父上にかくまってもらおう。
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