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本当は既存のラームに介入するアルゴリズムを担当してイェンのハートを鷲掴みにしたかったが、今の私では力不足であることを理解していた。そもそも、既存のナノマシンに対して介入するのは容易ではない。幾つものセキュリティを突破しなければならない場合が多い。ラームの開発者か、採算度外視して研究を重ねた成果か、或いは天才か。イェンがどうやってその難関を突破するのかは興味があった。
イェンの手伝いを始めてから七日目。
「どうしても上手くいかない」
イェンがいつになくいら立っているのが言葉の端から感じ取れた。私は気にしていないフリをして自身の製造に没頭する。も、隣にいるイェンを視界の端でしっかりと捉えている。
「友人に作ってもらったこのモジュールがどうしても組み込めない。このままでは君のモジュールと結合できない」
マウスを強く握りしめるイェンの右手に、私はそっと手を重ねた。
びくりと、イェンが驚いて手を引いた。
「ご、ごめん」
謝られて私の純情はちょっと傷ついた。そんなに驚くことないじゃない!
少し頭を冷やしてくる。イェンはそういうとトレーラーハウスの外に出ていった。
私は急いでイェンの端末に座り、問題のロジックを請け負うつもりだった。解決策を提案出来たら喜んでもらえるはず。そっとソースを見ると、イェンが苦心していた箇所に違和感を覚えた――。
「リリ、どうしたの?」
「ごめんなさい、ちょっと気になって」
イェンが急に戻ってきて、私の心臓は跳ね上がった。
「イェンが困っているところ、何となくわかるよ。私、やってみようか?」
「……ああ。頼む。すまないが今日は先に休ませてもらう」
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