毎夜の徘徊~湿度を求めて~

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毎夜の徘徊~湿度を求めて~

 7月28日の午前零時。  私はキャップを深くかぶりこみ、薄手のジャケットと足首まで隠れる長めのスカートという装いで玄関の戸を開ける。化粧はあくまでナチュラルに。  ここは新江東区。かつて東京湾の一部だったこの行政区は東京28区の中でも特に涼しいのだ。  7月28日は1世紀ほど前だと関東随一の花火大会がどこかの区で行われていたらしい。  が、それも今は昔。この一世紀の間に夏は暑いものではなくなったため、夏の風物詩は居場所を無くし続けている。  2118年7月の平均気温は20度だ。  ――輻射熱反作用機構。  それは、Radiant heat reaction mechanismの頭文字をとって『R.H.R.M』(ラーム)と呼ばれた。  この技術は日本が世界で最初に開発し、瞬く間に世界中に広がった。特許は勿論、日本が持つ。  1世紀前の世論が見込んでいたとおり、2118年の日本は順調に高齢化が進み予定どおり労働力を失い続けている。  それでも技術大国・日本として未だに高水準の国民総生産を誇れるのは環境系ナノマシン技術の実用化にいち早く成功したかららしい。     
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