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一息ついて、それでも僕はまだ続ける。 「大志が来るまではよくその手すりを乗り越えて、自殺まがいのこともしてた。自分の心臓の鼓動が強くなって、汗が噴き出て、怖くて結局留まる。そうして、自分はまだ生きたいんだって確認してた」 「馬鹿なことやってんじゃねぇよ」 大志は鋭く言った。僕は少しの笑みを浮かべて答えた。 「馬鹿なことなのは分かってる。ただ、これからの人生を考えると、疲れてしまう。他人には家族がいるという当たり前に、嫉妬して疲れてしまう。ひとりでいたいと思うのも、友達を作るのに積極的になれないのも、その嫉妬からきてるんだと思う」 互いにしばらく黙った。僕が指で挟んでいる煙草は、長い灰が地面に向かって垂れ下がっていた。 沈黙を破ったのは、大志だった。 「なぁ、お前の煙草一本くれよ。俺のやつなくなっちゃったからさ。銘柄が違うことは我慢するよ」 そう言って僕のポケットから煙草を奪うと、大志は一本を取り出して、自分のライターで火を付けた。 「生きとけばいいよ」 大志は空を見ながら言った。口から吐いた白い煙は、真っ直ぐに空に登っている。 「なんつうか、その、俺からすれば生きてることが当たり前だ」 髪を短く揃えた頭を掻きながら、大志は続けた。 「それにさ、例えば今俺が生きたいと思う理由は何かと聞かれたら、こうして護と煙草を吸いたいからってのが理由の一つだよ。俺が生きたい理由がお前ってのは、お前が死なない理由になるだろ。お前ひとりの問題じゃないんだよ」 それにしてもこの煙草あんまりうまくねぇな、と言って大志はいつもと同じ真っ白な歯を見せて笑った。 家族や自分のことを吐露したことが急に恥ずかしくなってきて、結局僕はそれ以上何も喋らなかった。 気付くと空は、ほんのりと赤く染まり始めていた。
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