2

9/9
前へ
/18ページ
次へ
大志が一学期いっぱいで転校することを僕に切り出したのは、夏休みに入る直前だった。 転校すると聞いても、不思議とそれほどに寂しさはなかった。 あの日、家族の死を大志に伝えて、大志に優しい言葉をかけられた。だけど、根本的なところで、僕の心に大きな変化はなかったと思う。冷たい言い方になるが、死なない理由の一つが大志というのは、天秤の傾きが変わるほどの重さではなかった。 だから、転校の理由は聞かなかった。 終業式に疲れて、ホームルームが終わるとすぐに屋上へ向かった。そこには当たり前に大志がいて、いつも通りの時間を過ごした。連絡先を交換したり、今までの思い出話を語ったりはしなかった。 屋上から降りて、校門の前で別れる直前、大志は言った。 「護との屋上、楽しかったぞ。じゃあな」 真っ白な歯を見せて微笑みながら、最後にこう付け加えた。 「お前はひとりじゃないからな」 それが、僕が大志を見た最後だ。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加