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大志が一学期いっぱいで転校することを僕に切り出したのは、夏休みに入る直前だった。
転校すると聞いても、不思議とそれほどに寂しさはなかった。
あの日、家族の死を大志に伝えて、大志に優しい言葉をかけられた。だけど、根本的なところで、僕の心に大きな変化はなかったと思う。冷たい言い方になるが、死なない理由の一つが大志というのは、天秤の傾きが変わるほどの重さではなかった。
だから、転校の理由は聞かなかった。
終業式に疲れて、ホームルームが終わるとすぐに屋上へ向かった。そこには当たり前に大志がいて、いつも通りの時間を過ごした。連絡先を交換したり、今までの思い出話を語ったりはしなかった。
屋上から降りて、校門の前で別れる直前、大志は言った。
「護との屋上、楽しかったぞ。じゃあな」
真っ白な歯を見せて微笑みながら、最後にこう付け加えた。
「お前はひとりじゃないからな」
それが、僕が大志を見た最後だ。
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