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錆びた手すりは、早く手放したいと感じる程の熱を持っていた。 この手すりを離せば、僕の体は宙に投げ出され、その数秒後、校舎裏の職員駐車場を僕の体で汚すことができるはずだ。 そう考えて目を閉じると、心臓の音が体全体を揺らした。九月の陽はまだ暑い。 夏の残り火は容赦なく後頭部と背中を焼き付ける。額に汗が滲む。 この鼓動が暑さからくるものでないことを僕は知っている。 満足した僕は踵を返し、手すりを飛び越え屋上の平地へ戻った。 「お前はひとりじゃないからな」 あの時、あいつはそう微笑みかけた。だけど僕は、今でもひとりな気がしてならない。
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