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教室の扉を開けると、すぐそこに僕の席がある。最も廊下に近い列の後ろから二番目。 一番後ろの席の、つい先ほど知り合ったばかりの大志はまだ戻って来ていなかった。 大志の席の後ろにあるゴミ箱に、銀紙で包んだガムを捨ててから席に着く。 「ねぇ、におってるよ?」 隣の席の菊川(きくがわ)という女子生徒が僕に言った。持ち前の人当たりの良さと、人見知りがない性格が相まって、もはや空気が読めていないのではないかと疑うほどに平気で色んな人に話しかける。 「…ごめん」 目も合わせずにそう言うと、僕は机に突っ伏した。 後ろから大志にペン先でつつかれて、僕は目を覚ました。授業が始まっていた。振り返ろうとして、机の上に丸められたメモがあることに気付く。こっそりとメモを開く。 『消しゴムかして たいし』 なんだそれ。僕はわざわざ振り返ることなく、予備の新品の消しゴムを大志の机に置こうとした。しかし、机に着くより先に大志の手が消しゴムを持っていった。「サンキュー」という小さな声。その声に気付いた菊川が大志の方をチラリと見るのが分かった。 それから毎日、大志は屋上に来た。 僕が煙草を吸っていると、「よお」と声をかけてきては、一方的にべらべらと喋り出し、僕は時折相槌を打ちながらその話を聞くというのがいつものパターンだった。 自分でも意外だったが、大志との時間はそれほど苦ではなかった。大志は中学の友人達のように気遣いや同情の目線を僕に投げることがなかったからかもしれない。家族のことなど話していないから当たり前だったのだが。 それに、大志の話は基本的にはくだらない世間話ばかりで、僕はうんうんと答えていればよかった。 隣のクラスの〇〇という男子生徒が告白して振られたという話や、学校の横にある公園に出る幽霊の話など、そういった類の話だ。そんな話をしながら、僕達は空き缶に吸い殻を重ねていった。
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