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「ほら、俺って一番後ろの席だろ。だから授業中にクラスの奴らが何してるかよく見えるんだよ。漫画読んだり、護みたいにすぐ寝たり、色んな奴がいて面白いよ。まさに授業の裏側を覗いてるって感じでさ」
出会ってから2週間が過ぎた頃、大志はこんな話を始めた。この頃には、「大志」「護」とお互いを下の名前で呼び合うようになっていた。もちろん、大志が言い出したことだ。
「例えばさ、斜め前の菊川は…」
そんな調子で大志はクラスメイトの授業中の様子を説明し始める。
クラスの4分の1ほどの名前が出たところで、我慢ならずに僕は言った。
「別にいいよ。わざわざ皆のことを説明してくれなくても」
ふぅと煙を吐き出して呆れるように大志は答えた。
「護はクラスのやつらに興味がなさすぎ」
「お前がありすぎるんだよ」
思った以上に語気が強くなってしまった。大志は呆れ顔をやめて僕を真っすぐ見た。
「俺にはお前が、頑なにひとりでいようとしてるように見える」
僕は何も答えない。
大志は続ける。
「この先もひとりでいるつもりかよ。ひとりは寂しいぞ」
黙り込んだ僕に少し焦ったのか、大志は表情を崩して明るい声で言った。
「ごめんごめん。説教垂れるつもりはないんだよ。俺は寂しがり屋だからさ。お前のそういうの分からないんだよ。こうして屋上に来るのだって、俺の場合はお前がいるからだよ。ほら、どうせ校則破るならひとりよりふたりのが楽しいでしょ?」
それでも僕は沈黙を続けた。無理に作った笑顔をやめて、大志も黙った。
夕方の風が少しだけ涼しかったが、夏の夕空はまだまだ青い。
少しの沈黙の後、大志は白い歯を隠して言った。
「あのさ、お前…」
ーー何かあったの?大志の次の言葉が出てくる前に、僕は言った。
「家族が、全員交通事故で死んだんだ」
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