0人が本棚に入れています
本棚に追加
青
わたしは、あなたをあなたと呼ぶ。
あなたは、わたしをキミと呼ぶ。
そんな風になるまで、二十三年も付き合いましたが、子宝には恵まれませんでした。
それでも、あなたは、わたしを愛おしく想ってくださる。
山里の中で、ひっそりと暮らしておりました。
ところが、今年の海の日に、本当に海に行こうと誘ってくださいました。
それも、もういい年して、久し振りのドライブですって。
「キミ、いいだろう。レンタカーは、カローラ1100の青いボディー。1100とは、『プラス100ccの余裕』のキャッチフレーズで売り出していただろう」
「初めてあなたが欲しいと思った車でしたね。この色もいいって」
あなたが、キーを差し込み、この感覚がいいとときめいていて、わたしも嬉しく思いました。
「キミ、シートベルトは大丈夫だね。よし、では出発しよう」
「まあ、朝霧が晴れたら、随分と爽やかですね。あなた」
エンジン音は、昔を感じさせます。
そして、あの大きな大きな青い空は、あなたとわたしを夏に誘います。
永遠に続くと思っていました。
けれども、ざざざと黒雲が顔を広げ、あっと言う間にゲリラ豪雨となりました。
最初のコメントを投稿しよう!