予兆

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十年近く経ってやっと許され帰国してから娘を授かるが、 夫は病に倒れてしまう。 妻と乳飲み子を残して旅立った彼は三十をいくつか越えたばかりだった。 「日本に帰って来なければあの人は死ななかったかもしれない。 ずっと後悔してた」 大お祖母ちゃまは言った。 「でもあなたが生まれてきてくれた時にわかったの。 あなたに会う為に私達、 ここに帰って来たんだって」 小さな手が私の頬にそっと触れた。 「本当にそっくりだったの、 私の夫に」 「うん…」 子供の頃から繰り返しそう聞かされた。 「あなたは私にとって特別な子。 だから幸せになってもらいたいの」 「私幸せよ。 大好きな人が側にいるから」 頷いて、 その手が優しく頬を撫でる。 「世の中は思い通りには行かないの。 あなたたちを引き裂こうとする人も現れる。 だけど大切な人を絶対離してはだめ」
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