宵世界紀行

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 この場所はどこか寂れていた。街灯には蔦が巻き付き、周辺の建物は異国の雰囲気を醸し出している。  辺りは薄暗い街灯にぼんやりと照らされているだけで、心細い。  しかし、どうせ孤独に歩かなければならないのであれば、ゆっくり家を目指しつつ、楽しむことにしよう。  何分か歩いたあたりで、食欲をそそる匂いと共に橙色の暖かな光が見えてきた。  どうやら屋台のようだが、このような人びとが寝ている夜更けに営業というのは、どうにも怪しい。怪しすぎる。  しかし、悲しいかな三大欲求の食欲には勝てない。ふらふらと虫のように誘われ、屋台に近づいてしまう。  屋台はラーメン屋で、マスターと大柄な先客が一名いるようだ。    私の気配に気づいたのだろう。客がこちらを振り返った。 「ヒッ……!」驚き、尻餅をついてしまう。  なぜなら、今、私の目に映る存在が人ならざる者だったからだ。  なんとも形容できぬような見た目をしている。160㎝ほどの球体の図体に、全身緑色の毛が生えており、マリモに手足が付いた様な生き物に見える。後ろからでは、暗がりだということも相まって、服や帽子も身に付けていたので分からなかったようだ。 「おや、人間が来るとは珍しい」    
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