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1.過ぎない時間
「まだ着かないのか……」
車窓からは暗闇の中に対向車のライトとわずかな標識だけが見える。虚無だけが支配する空間、深夜バス。
僕は地元、青森の大学に通っている。東京の友達と遊んで、高校のクラスメイトだった、比沙子さんの一周忌に合わせて帰る途中だった。
入院をしがちな彼女に、病院に学校のプリントを届けたりしながら励まし続けた。初恋だったんだけど、思いを伝えることができないまま亡くなってしまった。
最後の瞬間、彼女の2つ下の妹、比奈子さんと一緒に泣いたのを今でも覚えている。おてんばでいたずらが好きだったから、よく比沙子さんに怒られていたけど、かわいい妹さんだった。
家はそんなに遠くないが、駅から逆方向なので、その後はたまに妹さんにすれ違ってもあいさつする程度だ。
それにしても格安料金に釣られて乗ったバスは、4列シートでリクライニングの角度も浅くてとにかく眠れない。
8月も終わりに近いこともあり、車内に人は少なく隣が空いているのと、トイレがない代わりに真夜中のサービスエリアで休憩があり、外の空気を吸えるのが救いだった。
さっき福島県の国見サービスエリアで休憩してからうとうととしたのに、目が覚めてもまだ2時間も過ぎていない。
とりあえずスマホを手に取って地図を見るが、まだ宮城県内、青森はまだまだ先だ。
「逆ウラシマ現象(※)」とはこのことか。いっそ暇つぶしに幽霊でもいいから来てくれとさえ思い始めていた。
バスの後ろの方でがたんと物音がした。さして気にはならなかった。ところが……
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