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3.真夜中のサービスエリア
「比沙子さん、実は僕も、キミが好きだったんだ」
それを聞いた彼女は少し悲しそうな顔をして、
「両思いだったんだ。うれしい、でも……」
そう言われて現実に引き戻される。比沙子さんはもうこの世の人ではないんだ。
「あのね」
彼女が何かいいかけたその時だった。
ちりん、ちりん
「何? この音」
「熊よけの鈴かな?」
しかし音はどんどん近づいて来る。
ちりーん、ちりーん……
「こ、怖い」
「バスに戻ろう!」
すぐに立とうとしたのだが、足が動かない! すると、
――将太くん、久しぶりね……
声が聞こえた。いや、心の中に響いてきた。この声は……
ぼうっとしたもやもやが、一人の女性の形になる。その顔は……
「ひ、比沙子!? あれ? でもこっちに」
向かいを見ると、さっきまで比沙子を名乗っていた女の子が震えている。
――比奈子、そんないたずらしちゃだめよ
「お、お姉ちゃん、ごめんなさいごめんなさい!」
比奈子……、比沙子さんの妹だ。だから声も雰囲気もそっくりだったのか。って、じゃあ今現れた幽霊が本物!?
――次にやったら、あっちに連れて行くからね
「ごめんなさいごめんなさい、もうしませんから!」
比奈子は平謝り状態だ。それを見て比沙子は僕のところに来た。
――将太くん。最近どうしてる?
「どうって、特に何も……」
――そう。ちょっと聞いてたんだけどね、私のこと好きって言ったのはうれしかったよ。
「本当に好きだったんだよ。比沙子は?」
――私も、あなたが好き
「……」
その言葉を聴いて泣きそうになった。どうして生きている時に聞けなかったのだろう。あの時告白したら、聞けたかも知れないのに。
――だから、さよなら。比奈子のことをよろしく
比沙子さんは少し寂しげな笑みを浮かべて、すっ、と消えてしまった。
僕と比奈子は二人とも硬直していた。その静寂を打ち破るように、
「青森行きのお客さーん! 出発ですよ!」
運転手さんの声がして、あわててバスに乗り込んだが、しばらくはあまりの怖さに何も話せなかった。
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