夕暮れ時

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 群青色の地に赤や白の花が描かれた浴衣に赤い帯締め。  赤い花緒の黒い厚底の草履。  いつも2つに結わえている髪をひとつにまとめてアップにし、大きな赤い花飾りをつけている。  まるで打ち上げの花火を見に行くかのような格好。  場違いなのは一目瞭然。  僕はあえて彼女を無視して、他の参加者に声をかけて回った。 「今日は天体観測に参加してくれてありがとう」 「君達は一年生?」 「ちゃんとご両親に天体観測に参加すること、伝えて来たかな」  彼女は何か言いたげにこっちをじぃっと見ていた。 「遠藤くん、天体観測にご招待ありがとう」  声を掛けてきたのは彼女の隣にいた同じクラスの女子--この子はTシャツにホットパンツ、スニーカーと一応、山道は歩けそうな格好--だった。  ただチラシを渡しただけ、特に招いたつもりはなかったが、どうやら彼女と一緒に参加したらしい。 「来ていたんだ」  僕は今気付いたかのように振る舞った。 「その格好…………これから青龍寺まで山道歩いて行くけど大丈夫?」  青龍寺は山の上にある。  ここから30分ほど山道を歩くことになる。  土の地面を木枠で囲み、階段の体を為してはいるものの、とても草履で歩けるような道ではない。 「平気」  と彼女は微笑んだ。 「新体操で鍛えているから」 「…………そう」  言いたいことは山程あった。  その厚底の草履で山道は歩けない、歩けるわけがないのに何故、そんな歩きにくいものを履いてきたのか。  そもそも天体観測なのに、『動きやすい服装で』と書いてあるにも関わらず、何故わざわざ浴衣を着て来たのか。  綺麗に着飾っても、山の上の暗闇では見えないのに何故、浴衣に草履なのか。  だが。  僕はあえて口をつぐんだ。  問い詰めたところでまともな答えが返って来るとは思えない。  時間の無駄、だ。
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