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「一緒にいた友達は?」
あたりは薄暗く、東側の空が闇に染まり始めている。
よいしょっと彼女は一段ずつ、滑りやすい土の階段を踏みしめていた。
「美咲ちゃん? お手洗い行きたいから先に行ってる、って」
同じクラスの女子はミサキという名前らしい。
そういえばいた気がする。
確か、篠原美咲、だ。
--出席確認でそういう名前の女子がいた。
置いて行かれたのか……。
大方、ペースの遅さについていけなくなったのだろう。
「『山道を歩く』って最初に言ったよね?」
口にするまいと思っていたが、思わず本音が漏れてしまう。
「……それって責めてる?」
彼女が眉を潜めた。
「いや、呆れてる」
「………………」
馬鹿にしたつもりだったが。
「……遠藤くん、優しいね」
「優しい? どこが?」
今度は僕が眉を潜める番だった。
「先を歩いていたのに、わざわざここまで降りて来て待っててくれたじゃない」
無邪気に微笑んで言葉を続けた。
「ありがとう」
こんなにイライラしながら相手をしているのに。
何故、お礼を言われるのか。
まったく訳がわからない。
ペースが崩れる。
思わぬ言葉に毒気を抜かれてしまった。
「あ……」
彼女がバランスを崩し後ろに倒れそうになった為、肩を後ろから支える。
「ありがと」
もうすぐ陽が沈む。
早く山道を昇らなければ、辺りは闇に包まれるだろう。
そうなると、土の階段を昇るのも困難になる。
イベントを遅らせる訳にもいかなかった。
「ほら」
手を差し出す。
彼女を引っ張ってでも歩かせなければならなかった。
僕の差し出した手に、彼女は頬を染めながら、おずおずと手を乗せた。
「やっぱり、優しいんだね」
……面倒臭い。
勘違いさせたかな、と思いつつ、歩くペースを早めた。
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