天体観測

2/2
前へ
/10ページ
次へ
 お寺の住職にお願いし、救急箱をお借りした。 「何で言わなかった?」  絆創膏を貼りながら彼女を問い詰める。 「なんでと言われても……」  彼女は苦笑いして困ったような表情を浮かべた。 「来る途中で『痛い』なんて言ったら『帰れ』って言われるんじゃないかな、って……」 「ご名答」  多分、その場で引き返していたはずだ。  下から見上げると、彼女は大慌てで弁明した。 「でもでもでもっ! どうしても遠藤くんと一緒に星を見たかったの!」 「それならどうして……」 『動きやすい服装』で来なかったのか。  そう言おうとして遮られた。 「浴衣姿を見て欲しかったの、遠藤くんに!」  耳まで真っ赤になりながらそう答える。 「一緒に花火したかったの!」 ……まったく。  女というのは。  面倒な生き物だ。 「そんなことの為に痛みに耐えるなんて……」  本当に馬鹿だ。  痛いなら痛いと言えば良かったのに。  そうすれば。  もう少しゆっくり歩いたのに。 --本当に?  僕は彼女に対して、そこまで気を遣ってあげられただろうか。  僅かに残る罪悪感。  心の水面に小さな波が立った。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加