1人が本棚に入れています
本棚に追加
お寺の住職にお願いし、救急箱をお借りした。
「何で言わなかった?」
絆創膏を貼りながら彼女を問い詰める。
「なんでと言われても……」
彼女は苦笑いして困ったような表情を浮かべた。
「来る途中で『痛い』なんて言ったら『帰れ』って言われるんじゃないかな、って……」
「ご名答」
多分、その場で引き返していたはずだ。
下から見上げると、彼女は大慌てで弁明した。
「でもでもでもっ! どうしても遠藤くんと一緒に星を見たかったの!」
「それならどうして……」
『動きやすい服装』で来なかったのか。
そう言おうとして遮られた。
「浴衣姿を見て欲しかったの、遠藤くんに!」
耳まで真っ赤になりながらそう答える。
「一緒に花火したかったの!」
……まったく。
女というのは。
面倒な生き物だ。
「そんなことの為に痛みに耐えるなんて……」
本当に馬鹿だ。
痛いなら痛いと言えば良かったのに。
そうすれば。
もう少しゆっくり歩いたのに。
--本当に?
僕は彼女に対して、そこまで気を遣ってあげられただろうか。
僅かに残る罪悪感。
心の水面に小さな波が立った。
最初のコメントを投稿しよう!