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3.普通
近くの椅子に座らせると、拓也は目を閉じてしまった。
「あーあ。どうすんのよ、これ...」
家も分からないので送ることもできない。
拓也の目が覚めるまで、待つという選択しかなかった。
起きるのを待っている間、拓也の顔を眺めていた。
目は広い幅で二重の線が着いている。
確か、目を開けている時は垂れ目が印象的だったな。
鼻筋は綺麗に通っていて、全体的に顔は小さい。
よく見ると、色っぽい顔をしている。
髪の毛はふわふわとしていて、ふと触ってみたい衝動に襲われた。
一歩後ろに下がり、拓也との距離を開ける。
そしてそっと右手を頭へと運ぶ。
ードキドキー
目を、開けてしまったらどうしよう。
不安になりながらも、少しずつ、少しずつ、手を伸ばしていく。
ふんわりとした感触を右手に感じると、優しく優しく撫でてみる。
「かわいい...」
思わず顔が緩み、情けない声が漏れる。
こんなに人間を愛しく思ったのは初めてだな。
そう思ったのと同時に、体が熱を帯びてくる。
ムズムズとした感覚に襲われ急いで拓也から手を離した。
すると丁度、拓也が目を開いた。
私と目が合うと、
「サキ」
と言ってフニャッと笑う拓也。
何事もなかったかのように振る舞い、平常心を呼び戻す。
「とりあえず家行こ?近いから」
この状態の拓也から家を聞き出し案内までさせるのは無理だと判断し、ここからあまり遠くない私の家に連れて帰る事にした。
フラフラはしているが、何とか自分の足で歩いている。
アパートに着くと、拓也は勝手にベッドへ行ってしまった。
そしてすぐにむにゃむにゃと気持ち良さそうな寝息が聞こえてくる。
その顔を見てまた口元が緩む。
シャワーでも浴びようかと考えたが、拓也が起きてしまったらまずい。
この顔が、メイクではなく元からの物だとバレてしまうからだ。
ムカデでも乗せているのかと思ってしまうような睫毛に、紫色の瞳。
色っぽいとたまに言われる赤い唇は、リップではなく元からだ。
この見た目が嫌で、私はボディピアスを覚えた。
顔に装飾品を着ける事によって、少しは派手な模様も誤魔化せるかな、と思ったからだ。
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