第一章

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 知朗の父親(あきら)は、会社を辞め妻の郷里である此処、鹿児島県伊佐市に移り住むまでは、大都市圏の会社に勤めていた。会社を辞め転居して、現在は地元の焼酎工場に勤めている。その一年ほど前から、両親の苦悩する姿を知朗は子供ながらに重々しく感じていた。その頃の父親の目に恵のそれは似ている様に思えた。 *** 「だって嫌な奴なんだ!」  夕食時、先程から転校生の悪口が止らない知朗を父親が諭した。 「正々堂々と戦って負けたのならいいじゃないか。勝ち負けなんて関係ない。お前が成長できたかどうかが、本当の勝負だとお父さんは思う」  父親の言葉に知朗は納得できなかったが、教科書くらい見せてあげなきゃ。だって恵は教科書を持ってないんだから。そう思った。
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