第一章

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「ねぇ、鈴木君、教科書いいかな?」  教科書が揃うまで隣の人が見せなきゃならないんだっけ……。知朗は頭の中では分っていながら、どうしても気持ちは素直になれないでいた。 「それだけ?」  思わずそう言ってしまった知朗に恵は少し躊躇(とまどい)いをみせて「頼むよ」と言った。  渋々差し出された教科書の端に恵の華奢な手が触れると、知朗は少し自分の方に引き寄せ恵を困惑させた。その時に見せた彼の目は、まるで同じ年齢の者とは思えない程の大人びた寂しさを感じさせた。それは、そう、お父さんの目だ。
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