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――ペタ、ペタ。
(あの足音は、こいつの足音だったのか!)
ゆっくりとした動作で階段を上るピエロを、息を殺して覗き穴から見つめていると、やがてピエロは階段を上りきり、踊り場に立つ。そしてまた一歩、また一歩と歩き出す。
歩き出して――うちの目の前で立ち止まった。
(おいおいおいっ! 何でそこで止まんだよっ! 早く行けよ!)
身体ごとうちの方を向きながら、じっとしていたかと思えば、そのまま歩き始める。
――うちの玄関に向かって。
「……っ」
覗き穴の向こうには、一面ピエロのにたりとした、声のない、静かな笑みがあった。
あれは明らかに、覗き穴の向こうにいる、“俺”に向かって笑っている。
目を三日月のように細め、唇は歯を見せることなく、ただつり上げる。
ピエロはそのままの表情でしばらく“こちら”を見た後、何を言い残すこともないまま帰っていった。
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