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「冗談だよ!私、自分の名前なんてとっくに忘れちゃったの!だから適当に名乗っただけ」
彼女……いや、サエコは軽く真相を告げると、今度はケラケラと笑った。
自分の名前を忘れてしまっただなんて俺にはとても笑って受け入れられるような話ではない。でも、サエコはまるで当たり前の事のように笑っている。幽霊って案外呑気な奴もいるんだな。
「名前なんて考えたこともなかったけど、これからはサエコにしようかな!ありがとう、立花くん!」
という事で、本日、彼女の名前が決まった。
そんな適当でいいものなのか?というか、「これからは」って、それってこの先もずっと幽霊でい続けるって事なのか?彼女はそれでいいのか……?
色々と疑問は絶えないが、彼女がそれで良いと言うのなら放って置いた方がいいのかもしれない。成仏できない事に苦しんでいるようにも見えないし。
「どうしたの?そんな苦い顔をして」
「あ、いや……何でもないですよ」
どうやら、考えていた事が表情に出ていたらしい。不思議そうな顔をしてこちらを凝視するサエコに、俺は精一杯の作り笑顔を向けた。
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