バラ園の密会

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最近は特に忘れっぽくなった。情けないことに、その恋の顛末も記憶が定かでない。 私も相当、年をとったようだ。 身体はいたるところに衰えが現れ、大事な思い出まで忘れるこの有様。 でも、まあそんな状態でも救いはある。 「もうすぐお迎えが来る」という自分の現状を実感し、覚悟できることだ。 私が若い二人の逢引きをこっそりのぞいているのは、きっと理由がある。まあ、大層なことじゃない。 ただ……懐しみたいのだ。 私は、あの二人の逢瀬に自分の青春時代を重ねて、思い出したいのだ。 二人は真夜中になるとやってくる。特に何をするわけでもない。 白バラの茂みの根元に座り、おしゃべりをする。 このバラ園は私の部屋の真下にある私的な庭だ。好きな白バラを楽しむためだけに作った。 結果、どこの誰とも知らぬ若い二人に密会場所を提供した格好となった訳だが、まあ、それもいい。 二人には真夜中の逢瀬を、誰にじゃまされることもなく楽しんでほしいと思う。 貴族と平民の恋など、公にできるものではない。もちろん明るい未来など望めない。 彼らには切ない別れが確実に訪れるわけで、それまでの間、ささやかな愛を貫くのも美しいことだと思う。若い頃の思い出は長い人生を生きる糧になる。 若人たちのひと時の青春に私の庭が貢献しているなら、それは本望だ。
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