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今夜も真夜中に彼らはバラ園にやってきた。
私は窓辺の椅子に腰を下ろし、カーテンの隙間から彼らを見下ろす。
彼女は彼の横に腰かけ、二人は手をつなぎながら話をしている。
こちらに背を向けているので、どんな表情かはわからない。もちろん話の内容も聞こえない。
弱った視力の私では、彼らの横顔を確認することもできない。
私はテーブルの上に置いた眼鏡に手を伸ばした。しかし、そこに眼鏡はない。
高価な金縁眼鏡……いつなくしてしまったのだろう。仕方がないので、そのまま視線を窓の外へ戻す。
彼らはいつでも仲睦まじい。話している間、一度も繋いだ手を離すことはない。しかし二人とも真面目なのだろう。手を取り合って時折短い話をしているだけで夜が明ける。
顔を突き合わせ、花びらをつまんで弄りながら穏やかに見つめ合っているだけなのだ。
まあ、二人は貴族と平民。境遇が違う彼らに共通した話題などあるわけがない。
彼は彼の話したいことを一方的に話し、
彼女は彼女で言われたこと適当に頷いてわかった振りをする。
とりとめのない会話の連続で話もかみ合わず、実はあまり意志相通できていないのではないかと思う。
しかし、お互いをわかり合う必要なんて実はないのかもしれない。
身分が違えば考えも違う。価値観の相違を心底実感してしまえば、それは……つまり、別れという選択につながってしまう。
思慮深く現実的な会話は、二人に未来がないことを自覚させてしてしまうだけなのだ。
ただ真夜中に肩を並べて星や月を眺める。
若い二人にはそれだけで十分だし、それ以上は望むべきではないのだ。
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