バラ園の密会

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その夜はひどい雨が降っていた。 大きな雨粒が派手な音を立てて窓を叩く。 屋外で逢引きするには気が引けるような強い降りだ。 まさか今日はさすがに来ていないだろう……と、例のごとく庭を見下ろすと、いた。 ずぶ濡れの村娘が。 村娘はぐっしょりと濡れたブロンド頭でうなだれていた。 白バラの中で拳を強く握り、立ち尽くしている。 その姿は怒りを湛えているような、はたから見れば惨めなような、どうにも居たたまれない有様だった。 雨はどんどん強くなる。真夜中で月明かりもないバラ園は重苦しい闇に包まれていた。 ただ時折光る強い稲光が、彼女の薄気味悪い姿を浮かび上がらせていた。 「……あいつはこないのか?」 私はカーテンを後ろ手に閉め、ひとりごちた。 カーテンの向こうでは強くなる雨音と共に、激しい雷鳴が聞こえる。 なんだか嫌な予感がした。 なぜなら、最近の二人は喧嘩をする頻度が増していたからだ。 次の日の夜になっても、もう二人は手をつなぐことはない。 それはどういうことを意味するのか、私は経験上わかっていた。 男は女を捨てたのだ。 別れ話は何日にも及び、話はこじれ、男はきっと会うのも億劫になってきたのだろう。     
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